読感


散るぞ悲しき―硫黄島総指揮官・栗林忠道 (新潮文庫)

散るぞ悲しき―硫黄島総指揮官・栗林忠道 (新潮文庫)

【内容情報】(「BOOK」データベースより)

娘よ!妻よ!絶海の孤島からの手紙が胸を打つ―水涸れ弾尽きる凄惨な戦場と化した、本土防衛の最前線・硫黄島。その知略で米軍を最も怖れさせた陸軍中将栗林忠道は、粗末なテントに起居しながら、留守宅の幼い末娘を夢に見、お勝手の隙間風や空襲の心配をする愛情こまやかな父でもあった―。死よりも、苦しい生を生きた烈々たる記録。感涙のノンフィクション。


★★★★(★)

とてもよく出来ている。
戦記物にありがちな感じが全くない。
感情に流されて書かれた部分が全くなく、
とても、淡々と、丁寧に書かれている。
指揮官の人となりを丁寧に描き出し、
史実に照らし合わせ、
著者の感情を入れる部分は最小限に、
読者に押しつける感が全くない。


ものすごく沢山の参考文献を読み、
生存者や家族の話を聞き、
何度も何度も推敲を重ね、
余計な文章は全て削ぎ落とし、
冷静に丁寧に、そうやって書いたんだろうなぁ・・と思った。


けっして厚い本ではない。
なのに、戦争末期の日本の問題や、
硫黄島だけでない、他の南の島々が当時たどった道筋や、
大本営のずるさ、かねてより言われていた、陸軍海軍の軋轢。
東京大空襲がどのように行われたか。
歴史の流れも、良く分かる。
戦争に関する入門編としても良い本だと思う。



ただ、例えば子供の夏休みの図書に向くかと言われれば、
向かないだろうなぁ。
「守りたいもの」がある大人の人向けかもしれない。
タイトルの「散るぞ 悲しき」は、辞世の句から取ったもの。