読感


硫黄島の兵隊

硫黄島の兵隊

出版社 / 著者からの内容紹介
 太平洋戦争末期の激戦地・硫黄島に一兵隊として送られた著者は、全島を地下要塞化するための穴掘り作業に従事する。しかし島には真水がなかった。火山島では塩辛い硫黄泉しか飲めず、燃えるような喉の渇きに襲われながらの過酷な労働、やがて栄養失調に。骸骨のように変貌する兵隊たちは真水を腹いっぱいに飲むことを夢に見て……。爆撃と飢えと渇き。兵隊の敵は米軍だけではなかった。傷病兵として帰還した著者が綴る真実の戦争。

内容(「BOOK」データベースより)
爆撃と、飢えと、渇き。全島を地下要塞化するための重労働。守備隊2万1千人のうち2万人が戦死。「真水」を腹いっぱいに飲むことを、夢に見て。―戦史をふまえて補足しまとめた、父の体験記。

★★★★(★)



主に米軍・硫黄島上陸前の、体験記。
出版後、廃盤になったものを、
その娘さんが加筆し、本書が発行された。

前に読んだ本で、「士官も兵士と同じ食事を」
という通達が栗林司令官から出た・・と書いてあったけれど・・
それでも部隊ごとに、差があったんだな、と。
上陸当初から、ろくに水も食料もないような状況で、
下痢に苦しみ、やせ細り、繰り返される爆撃の中、
ひたすら穴を掘り続け・・・・


巻末にある、
「戦争を知らないで、一生を終えられたら、これほど幸せなことはありません」
という著者の一言と、
娘さんが硫黄島へ慰霊のため降り立った時につぶやいた
「戦後長い間の平和を、確かに受け取らせていただきました」
という言葉が印象的。




硫黄島の星条旗 (文春文庫)

硫黄島の星条旗 (文春文庫)

出版社/著者からの内容紹介
硫黄島に米国旗を打ち立てた六人の米兵の人生
摺鉢山に翻る星条旗とそれを揚げる兵士達──戦争写真の傑作がとらえた六人の米兵の運命と日米の死闘を描いた全米大ベストセラー

内容(「BOOK」データベースより)
摺鉢山に星条旗を掲げる海兵隊員―「世界で最も美しい戦争写真」にその名を刻んだ6人の兵士は、その後どんな運命をたどったか。そのひとり・著者の父は終生、輝かしき過去を語らなかった。太平洋戦争の帰趨を決定づけた硫黄島をめぐる日米の血みどろの死闘とそれを戦った男たちの知られざる人生を描いた迫真のドキュメント。

★★★


アメリカから見た、硫黄島の戦いが良く分かる。
そして、「英雄達」の苦しみと、その後も。
よく出来ている本じゃないかな、と思った。


ただ、一部気になる事も。
後書きで訳者が思いっきり書いてますが(爆)、
まさにその通りのことを私も感じました・・
以下、引用しておきます(爆)。
訳者が後書きでこういうことを書くというのは、
よほど腹に据えかねたのかな、と推測。。


パールハーバーから始まったこともあって、
日本軍の非人道性、狂信性を強調し、
太平洋戦争を「良い戦争」と描くことが多く、
本書にもその表現が使われている。

日本軍が残虐行為を犯したことを否定する気はないが、
戦争は人を狂わせるものだ。
14万人の非戦闘員の死傷者を出した東京大空襲や、
広島長崎の原爆投下、
戦後の進駐軍兵士によるレイプ強奪事件を
アメリカ人はどう考えているのだろう。
戦争は戦争。
「良い戦争」などは、あるはずがない。

個人的に付け加えておくと、
東京大空襲は、
街並みをまず円形に囲むように、ナパーム弾(だったかな?)を投下、
炎の壁を作って住民が逃げられないようにしてから、
焼き殺していったという。
武装の市民を焼き殺す為に、
なぜ、そこまでする必要があったのか。


原爆にしても、既に水面下で降伏準備が進められていたにも関わらず、
「大金を投じて」作った原爆の効果を試したかったから、
戦争が終結する前に急いで投下した・・・という話も聞く。
真偽のほどは分からないけれど、
著者が言うように、「戦争を一刻も早く終わらせる為」だけに、
投下されたのではない・・そう考えるのが、妥当ではないだろうか。


訳者が「良い戦争はない」と言うように、
私は「正しい戦争」なんてないと思っている。
世界大戦後、アメリカは懲りずに戦争を繰り返している。
本当に、それが正義だと信じているんだろうか。



それと、許せなかったのが・・・写真。
硫黄島へ行き、写真を撮ってるんだけど・・
どこからどう見ても、「記念撮影」なんだよね・・


戦没者記念碑の前などなら、分かる。
すり鉢山の頂上も、まぁ許せる。
(世界で最も有名な戦争写真の場所であり、著者の父親が立った場所である。写真ぐらい撮りたくなるのは・・ね。)
でも、小要塞?壕の中?、皆で並んで、
ニコニコと写真を撮る必要があったのか?
現状を伝える為の写真なら分かるよ。
でも、そうじゃなくて、誰がどうみても「記念撮影」なんだよ。
写っているのは、壕の内部でも弾痕でもなく、
壕だと思われる岩場(背景?)と、著者達だけで。


これほど不快な写真はそうないんじゃないか。
それを平気で自書の中に入れてしまう、その神経も理解出来ない。



どこの国の人間か、という問題ではない。
人として、どうか、という問題ではないか。


そこは、多くの日本兵が命を落とした場所であり、
もちろん米兵も同じである。
水もなく、本当に苦しい闘いを強いられたその場所で、
いまだ沢山の遺骨が残されている場所で、
なぜそんな無神経なことが出来るのか。



日本兵と日本人だから、ではない。
例えば、アウシュビッツで、多くの命を奪ったガス室を見学したとする。
その時に、ガス室の中に入って、そこで皆で並んで楽しそうに写真を撮るだろうか?
沢山の人が苦しんで亡くなった場所で、
笑顔で記念撮影なんて、する気になる?


まるで、殺人があった家の前にテレビが来ていて、
その画面に向かってピースサインをするクソガキと同じではないか。
不愉快なことこの上ない。


それでも星3つなのは、
そこらへんだけ除けば、よい内容だと思ったから。
「人間の物語」である。


それでも、やはり「比較」はしてしまう。
有毒な硫黄泉を飲み、下痢に苦しむ中、壕を堀り、
満足な食べ物どころか、水さえもなく。
負傷しても、米兵は船に引き上げて治療してもらえる。
日本兵は「真水」の一滴も貰えず、死んでいく。
遺体もそうだ。
「砂浜に大きな穴を掘って、そこに遺体を並べるしかなかった」
(遺体は番号等で確認しておいて、数年後(だったかな?)掘り起こしてアーリントンなどに葬られた)
日本兵の遺体は、いまだ「そこ」にある。
地下壕の中に。今も使われている滑走路の下に。


そんな比較を今更私がしたところで、意味のないことなんだけどね。
というわけで、硫黄島関連の本を読むのなら、
日本側から書かれたものの後に、
こちらを読むと、アメリカ側の事情?が良く分かり、
良いかと思います。。。。