読感

御巣鷹山と生きる―日航機墜落事故遺族の25年

御巣鷹山と生きる―日航機墜落事故遺族の25年

★★★★★

内容(「BOOK」データベースより)
小学3年生の健は、初めて飛行機に乗り御巣鷹山に消えた。頭にやきついて離れない凄惨な現場、日航との補償交渉、理不尽な事故調査…。遺族たちにとって“あの事故”は何だったのか。遺族会である「8・12連絡会」の事務局長がこれまでの歩みを克明に振り返る。
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
美谷島 邦子
1947年生まれ。1985年8月12日に起きた日航ジャンボ機御巣鷹山墜落事故で次男を亡くす。遺族で作る「8・12連絡会」事務局長。精神障害者の支援施設を運営する特定非営利活動法人の理事長、精神保健福祉士、栄養士(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


25年を迎えて、新聞に何度か美谷島さんの記事が載っており、気になっていた一冊。
あの事故がどれだけ悲惨だったかだけにスポットを当てた本ではなく、
サブタイトルにある通り、「25年」が語られています。
「健ちゃんのお母さん」としての、25年です。


空港でつないだ手を離した時の事、
送り出した自分、最後になってしまった会話・・
生きていると信じて登った御巣鷹山。絶望。凄惨な現場。
40度にもなる体育館での遺体探し。見つかった右手。
数ヶ月後、「消去法」で導き出して引き取った、骨が抜けて足袋のようになってしまった両足。
遺族会の立ち上げ。遺族同士の交流。


ずっと、いくつもの「何故」を抱えて生きてきたんだな、と思う。
何故自分は我が子を一人で飛行機に乗せてしまったのか、
何故我が子の乗った飛行機が落ちなければならなかったのか、
何故何故何故何故・・・理由を求め、原因を求め、
我が子の死の意味を求め続けて・・・
亡き子の為に出来ること・・・それをずっと考えて・・
本書の表紙には美谷島さんご夫婦が、事故の三日後に御巣鷹山に登った時の写真が使われている。
呆然と立ちすく父親と、土の上にうずくまる、母親。深い絶望の姿・・・・
それが「原点」だという。

強い人だと改めて思う。
本書の中で、美谷島さんは誰も責めない。
優しい視点に溢れていて。


話が変わりますが、
少し前の新聞記事で、美谷島さんの長男(事故で亡くなられたのは次男)が、
今年から、遺族会の活動を手伝う事になった・・という記事を読んだ。
ご両親が遺族会を立ち上げた年齢(38歳)に自分もなったのと、
彼は、事故の前日、健君と他愛もない事でケンカしたんですって。
「お前なんか帰ってくるな!」と言ってしまったそうです。
そして、次の日、健君は御巣鷹山に消えた。
自分のせいではないと分かっていても、ずっとずっと後悔を抱えてきて。


大切な人の、予想もしない死 は人生を狂わせる。
日常がどれほど大切で宝物のように貴重なものだったか、見せつける。
もう一度、声を聞きたい。触れたい。
でも二度と叶わない。


事故の事を詳しく知らない人も、あの事故の様子が書かれた本を読んだ事がある人も、
是非読んで欲しい一冊です。


また、日航機の悲劇は広く知られている事だし、
他にも沢山の小説やルポが出ています。
遺体がどんな状態であったのか、あの現場がどれほど悲惨だったのか、
知ろうと思えば、知る事が出来るので、
そちらも合わせて読んで欲しいな、と思います。
(メジャーな所だと、「沈まぬ太陽」「墜落遺体」かな。)


もう一つ、読んでいて思ったのは、
25年で世の中はこんなにも変わっていたのか、という事。

あの当時、携帯電話はなかった。(ショルダータイプの衛星電話はあったのかな?)
ファックスも一般的ではなかった。
DNA鑑定も確立されていなかった。
引きちぎられ、あるいは焼かれ、肉片になってしまった520人の遺体判別がどれほど大変だったか・・
歯のデータにしても、当時は提出を拒む医者もいたという。
(これにしても、パソコンでデータを流すのではなく、近くの警察署が歯科医の所まで取りに行き・・という方法だったという)


遺族や被害者のプライバシーもなかった。
今もネットを検索すると、例えば川上慶子さんのインタビューが見られますが、
現代では有り得ない・・・と感じます。
病室に押しかけて、記者がたった12歳の少女にマイクをつきつけて、
どんな気持ちでしたか?と聞くなんて。
でも、あの当時は確かにそれが「普通」というか、まかり通っていた。
遺族や被害者の「気持ち」よりも、読者の「知りたい欲求」が優先されていた・・
遺族や被害者が声を上げる事が許されないような雰囲気もあったのではないかと思う。
25年、様々な立場の遺族が声を上げ続け、
報道による二次被害の酷さ、辛さを訴え続け、
そして少しずつですが、変わって来たんだな、と。
誰もが不用意に傷つけられる事がない世の中になればいいね。